The Institute of PsychoanalysisのBook of the Monthということでイタリア精神分析協会Società Psicoanalitica Italiana (SPI)の精神分析家 Anna Maria Nicolòの思春期研究の本Developmental Ruptures: The Psychoanalysis of Breakdown and Defensive Solutionsが取り上げられていた。
『発達的断絶(Developmental Ruptures):崩壊と防衛的解決の精神分析』と訳せばいいのだろうか。
2015年のInternational Journal of Psychoanalysisでこの著者のPsychotic Functioning in Adolescence: The Perverse Solution to Survive.「思春期における精神病的機能:生き延びるための倒錯的解決」を読んだことがある。(Nicolò, A. M. (2015) Psychotic Functioning in Adolescence: The Perverse Solution to Survive. International Journal of Psychoanalysis 96:1335-1353)
思春期臨床は長く携わっている領域なのでなにかとチェックしているが、今なお基礎となる理論はピーター・ブロスのものだと思う。ニコロも論文でBios P (1979) The adolescent passage: Developmental issues. New York, NY: International UP.を引用している。
さて、The Institute of Psychoanalysisによると、ニコロの著書は思春期ならではの心を様子を発達的観点から再考し、予後やリスク指標に焦点をあてたアセスメントについても論じているとのこと。紹介文にある以下の部分、
Crises in adolescence may mark the beginning of severe psychopathology, but they can also open the possibility for meaningful psychological reorganisation. In this way, developmental ruptures may reveal earlier vulnerabilities while also creating space for new integration and growth.
というのは思春期に限らず少なからず当てはまることとはいえ、思春期における断絶が秘める統合と成長への力は爆発的であるという点でやはり特別だし、思春期の特徴と精神病的な症状を区別することは難しいということでもあるだろう。変容とは潜在していた可能性が形をなすプロセスでもあるがそこには常に(といっていいと思う)危機が伴う。精神分析的治療がそこに対してなにかをするとしたらニコロがいうように慎重な診断は必須である。それも思春期に特別なことではないが、著者は思春期を発達的断絶Developmental Rupturesという危機にある発達段階と捉え、精神病的な発症との区別をしようとしているようである。そしてその場合に必要なのは、これも思春期に限ったことではないが早期介入である。
SPIのYouTubeでニコロたちによる対談、L’ascolto psicoanalitico ai tempi del coronavirusがみられる。イタリア語なのでわからないが、コロナ禍での傾聴について話されているらしい。危機介入という点では思春期への介入と変わらないかもしれない。
せっかくなので本の紹介文をご紹介。誤訳があったらごめんなさい。
「本書は、思春期に適用されてきた診断カテゴリーを発達的視点から問い直し、予後やリスク指標を考慮に入れた新たな評価の枠組みを提示するものである。
成人の精神病理の分類を超えて、Anna Maria Nicolò は、思春期の心を多次元的に捉えるアプローチを提示し、その複雑性を臨床的視点と理論的考察の双方から探究している。思春期における危機は、しばしば発達階固有の課題を逸脱する精神病的過程の開始を示すことがある。しかし他方で、このような発達的断絶は、人格の積極的な再編成の契機ともなりうる。この意味で思春期は、幼少期に潜在していた機能を浮かび上がらせると同時に、新たな統合を可能にする場ともなる。
したがって、患者および家族双方の発達的再編成を可能にするためには、正確な診断と早期介入が不可欠である。本書は臨床事例に基づき、発達的断絶に介入するための実践的かつ理論的な道具を読者に提供する。
『発達的断絶』は、精神分析家、精神科医、発達心理学者のみならず、特に思春期初期や青年期初頭において出現する精神病的発症や危機に関わるすべての専門家にとって関心を引く一冊である。」
以上。
目次は英語版の序文のあとにパート1,パート2がある。
PART 1 はThe adolescent and developmental rupturesということで 1 The adolescent mind 2 The problem of assessment in adolescence 3 Breakdown and developmental ruptures 4 The negated, repudiated, persecutory body 5 Sensoriality and developmental ruptures 6 Fear of breakdown and beyond 7 Developmental ruptures: A transformative pathway 8 Pathological transpersonal links and adolescent breakdownで4章で身体、5章で感覚に焦点化されているのがよさそう。Pathological transpersonal linksも興味深い。
PART 2 は The defence against developmental breakdownで発達的崩壊に対する防衛の諸相が挙げられている。 9 Perverse solutions and perversion 10 Daydreams and their evolutions 11 Martina: Alienation in the other 12 Violence as a defence against breakdown 13 Delusion, secrets and reciprocity 14 The transgender enigma 15 Self-harm and cutting
11章が詳細な事例らしい。
序文を試し読みで読むことができたが、そこで引用されているパール・クレーの文章がいい。On Modern Art(1945)からの引用らしいが邦訳はみつけることができなかった。
Klee then adds that “nobody would affirm that the tree grows its crown in the image of its root,” therefore, “between above and below can be no mirrored reflection” (1945, p. 13).
「木がその樹冠を根の像に似せて育てると主張する者は誰もいない」のであり、それゆえ「上と下とのあいだには鏡映的反映はありえない」と訳せばいいのだろうか。これは「断絶」という言葉では表現できない部分を描写しているように思う。
ニコロが論文でも参照していた思春期臨床の理論家は先述したPeter BlosのほかにMoses Laufer & Laufer、Raymond Cahnがいる。ニコロの序文によると
「Laufer 夫妻は、思春期患者に対して古典的な週4回あるいは5回の精神分析を再び提案することの重要性を繰り返し主張した。その場合、力動は若者の内的世界, とりわけエディプス的な運命を中心に組織されるべきである。」
「これにほとんど対置されるかたちで、Cahn(1991)は、思春期それ自体は、生物学的なもの、心的なもの、社会的なものの結節点を構成しているという。彼は、思春期の危機の治療には次のことが必要だと主張した。すなわち、思春期の若者とその関係システムにとって適切な環境、その若者が学校活動を再開できるような組織、家族内の相互関係を変化させる必要性、そして精神分析的治療に十分な期間を与えることである。」
「Raymond Cahn は、その後期の著書 La Fin du Divan?(2002)において、典型的な治療形態を参照点として維持することの重要性を改めて強調しつつも、Winnicott の影響を受け、セッティングと傾聴について新たな様式を提案している。とりわけ境界状態の患者や象徴化が障害されている患者についてである。こうした状況では、患者のあらゆる変化に敏感な分析家と向かい合う face-to-face のセッティングが好まれるべきであり、その分析家は大きな緊張水準に耐えつつ、辛抱強く患者の機能の再構築を行わなければならない。」
どうやら技法上の違いがあるらしいが、技法上の違いは分析家がたとえ同じ思春期の患者であってもどのような人に会ってきたかに影響されると思うので、彼らの臨床実践も読んでみたい。
と、いずれきちんと読んでもいいかもしれない一冊としてメモしておく。



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